中国音韻/音素 のバックアップ(No.5) |
起母起母は、起承転結が全て揃う完備音節の開始の基本形である。起母は調音部位と調音方法の組み合わせにより16音素に分類できる。調音部位は唇、舌根、舌尖、舌端の4通り、調音方法は破裂方法として口破、気破、鼻破、無破の4通りと、その組み合わせで表1のように 4×4=16 通りあるが、実際の発音では舌端と鼻音の組み合わせが無く、弱い声門閉鎖音のゼロ起母が例外として加わり、合計16起母となる。
起母は音韻学の声母とほぼ同じであるが、主な違いは舌面音 j、q、x と巻舌音 zh、ch、sh、r の有無である。猫音韻ではこれらを介母で扱う。また、声母としての ng は消滅しており通常は声母表に含まれないが、単独で特殊な音節を作るため、そして規則性を高めるために ng を起母に数える。
各音素の具体的な発音は表2のようになる。細かな音声特徴に拘ると幾らでも例外が現れるため、表にある音価は一例に過ぎない。対して音素は音韻規則を見出すため、必要最低限の特徴に止める必要がある。 調音部位は音声学の調音部位よりも粗い区分で、唇、舌根、舌尖、舌端しか区別しない。音声学のように調音部位を細かく切り分けると f や l のような例外が現れ、規則性が弱まってしまう。
調音方法は破裂の仕方だけで区別できる。音声学には摩擦/接近と有声/無声も重要視するが、中国語に関しては弁別的意味を持たない上、例外を増やすだけである。
承母承母は、起母の音韻特徴に対し修正を行い、新しい子音を合成する。この修正には時間差が無く、起母と承母は同時に調音される。承母は前舌の位置を指定する舌母と、唇の形を指定する唇母に分かれる。無指定の場合はそれぞれ、前舌を硬口蓋から離す低舌と、唇全体を開け閉めする平唇となる。ゼロ承母を含め、合計6承母となる。
承母の内、ゼロ承母、y、w、yw はそれぞれ音韻学の四呼である開口呼、斉歯呼、合口呼、撮口呼に対応する。また、y、w、yw はそれぞれの介母の i、u、ü に対応する。これらに声母とされてきた巻舌音の r と円唇化した rw が新たに加わる。
唇母 w は円唇化を指定する。円唇化は唇中央付近のみを僅かに開ける形である。例えば、歯茎破擦音 z()が円唇化したzw()となり、もはや z とは異なる子音になる。これは中国語の zw()と英語の類似音の zoo()の比較で分る。zw はSPACE ALC の音声つき中国語音節表 の「su」、zoo は weblio 和英辞典の"zoo"から確認できる。中国語では単一の音が続くのに対し、英語では平唇のから円唇のに移り変わるのが聞き取れる。 舌母 y は硬口蓋化を指定する。舌の位置に注目した場合、高舌化とも言える。硬口蓋化は前舌を硬口蓋に接近した舌の位置である。z()が硬口蓋化する場合、歯茎硬口蓋破擦音 zy()になる。IPA独自の二重調音記号 が与えられるほど、z とは異なった音として扱われる。舌端音 z c s の硬口蓋音 zy cy sy は、ピンインでは j q x が割り当てられ、全く別の声母として扱われる。 舌母 r は巻舌化を指定する。巻舌化は舌を巻き上げ、舌端裏を後部歯茎に接近した舌の位置である。z()を巻舌化すると zr()となる。巻舌音は古来からある四呼に含まれない理由で、介母に分類されないが、舌の形に対する修正という y と類似した機能的分類により承母として一括りにした。 この他、yw とrw はそれぞれ硬口蓋化と円唇化、巻舌化と円唇化の同時指定である。z()に対応する音は、それぞれ zyw()と zrw()になる。特に、zyw は歯茎、硬口蓋、唇の3ヵ所で同時に調音されることになる。 転母転母は、口を開くときの開き具合を指定する。起母と承母では口は閉じているのに対し、転母では円唇以外の効果を全て打ち消して口を開ける。転母を指定し場合は、不動を意味し、顎と舌は起母と介母を発音した位置から動かない。ゼロ転母も含め、合計3転母しかない。 転母は音韻学の韻腹に対応する。また、e、a はの順に等韻図の内転と外転とも対応する*1。
零転母の不転は起母と承母のまま音を伸ばす。小転の e は顎を僅かに開ける。ただし、低舌の場合は顎を閉じたままでも許容される。大転の a は e と弁別できる程度に顎を開ける。何れも転母も前後の承母と結母の影響を受けて変わるため、多くの音価を持つ。 結母結母は、音節の終了方法を指定する。結母は単独では音節を作らず、結母に入るときに弱い音の移り変わりが発生する。i、u、n、ng は音韻学の韻尾に対応するが、将来的に er 音化を指定する結母を追加する予定。
声調声調は、音の高さを指定する。一番低い音を1、一番高い音を5とする5度式で説明される場合が多く、その場合の調値は 55、35、214、51 で表現される。ただし、軽声は直前の声調に応じて変化する。また、絶対の高さは地域差、個人差が大きいが、意味の弁別に用いられる声調が5つあることが変わらない。
まとめ・つなぎ |