中国音韻/音素 のバックアップ(No.7) |
起母(きぼ)起母は、音節の始まり方を表す。計16起母である。 起母はピンインの声母とほぼ同じである。主な違いは、ピンインにある舌面音 j、q、x 、巻舌音 zh、ch、sh、r を除外している点である。これらは次節「承母」で扱う。
起母は、弱い声門閉鎖音という例外的なゼロ起母を除き、基本的に4種類の調音部位と4種類の調音方法の組み合わせで分類できる。 調音部位は発生の際に狭める口の部位である。規則性を強めるため、音声学の調音部位よりも粗い区分にしている。
調音方法は口の狭め方である。音声学と違って、破裂の仕方のみで分類する。
実際の発音では、舌端鼻音が無く、代わりにゼロ起母が加わって4×4=16起母となる。また、起母としての ng は既に消滅しており、今や特殊な音節 ng が残るのみである。このため、ng を除外する場合は15起母になる。
承母(しょうぼ)承母は、起母の特徴を引き継ぎ、変化を与える方法を表す。計6承母である。 承母は音韻学の四呼(開口呼、斉歯呼、合口呼、撮口呼)に巻舌音を2つ加えた、言わば六呼である。ピンインの介母(i、u、ü)と巻舌接近音(r、ru)を含む。
承母は、3種類の舌母(ぜつぼ)と2種類の唇母(しんぼ)の組み合わせで分類できる。舌母は前舌の位置である。
唇母は唇の形である。
低舌平唇はゼロ承母である。低舌は前舌の力を抜いたゼロ舌母、平唇は唇の力を抜いたゼロ唇母に当たる。したがって、低舌平唇は起母本来の音である。 低舌円唇 w は円唇化に相当する。円唇化は唇中央付近のみを僅かに開ける形である*1。例えば、歯茎破擦音 z()が円唇化した場合は zw()となる。中国語の zw()と英語の類似音の zoo()の比較で分るように、z と zw は異なる子音である。zw は大阪大学の音声つき中国語学習音節表 の「zu」、zoo は weblio 和英辞典の"zoo"から確認できる。中国語では単一の音が続くのに対し、英語では平唇のから円唇のに移り変わるのが聞き取れる。 高舌平唇 y は硬口蓋化を指定する。舌の位置に注目した場合、高舌化とも言える。日本語の拗音に対応する。硬口蓋化は前舌を硬口蓋に接近させた副次調音である。歯茎摩擦音 z()が硬口蓋化した場合は、歯茎硬口蓋破擦音 zy(=)になる。音声学では、専用の二重調音記号を与えるほど z とは異なった音として扱われる。経緯*2は異なるが、ピンインでも j が割り当てられ、z とは全く別の声母として扱われる。 巻舌平唇 r は巻舌化を指定する。例えば、z()を巻舌化すると zr(=)となる。音声学では、調音部位が異なるとして専用記号が与えられている。ピンインでは、zh が割り当てられ、z とは全く別の声母として扱われる。しかし、y と w と同じく接近音であること、y と排他的であること、単独で音節を作ることから一括りにした*3。 この他、高舌円唇 yw と巻舌円唇 rw はそれぞれ硬口蓋化と円唇化、巻舌化と円唇化の同時指定である。z()に対応する音は、それぞれ zyw(=)と zrw(=)になる。 *1
いわゆるタコの口になる必要はない。
*2 歴史的発音の変化。例えば、ピンインの j は zi と gi の両方を兼ねた折衷案である。 *3 音節構造から承母独特の解釈までを承母理論として纏める予定。 転母(てんぼ)転母は狭めてた口を一転して開ける方法を表す。ゼロ転母の不転(ふてん)、小転(しょうてん)、大転(だいてん)の計3転母である。 転母は音韻学の韻腹に対応する。また、e、a はの順に等韻図の内転と外転とも対応する*4。
不転は、ゼロ転母である。口を開けず、起母と承母をそのまま伸ばした音を表す。伸ばす過程では、力を少し緩めるため、音価は前の起母や転母に対応した接近音となる。ただ、中国語では摩擦音と接近音の対立が無いため、摩擦音で発音される場合もある。 小転 e は大転と弁別できる程度に顎を小さく開ける音である。低舌の場合は顎を閉じたままでも許容される。また、前後の音に応じて不転と区別しない場合もある。 大転 a は小転と弁別できる程度に顎を大きく開ける音である。顎の開き具合は絶対なものではなく、個人差・地域差が大きい。飽くまでも弁別できる程度の相対的なものである。 転母は前後の音素に影響される性質上、多くの音価を持つ。その上、音節によっては小転のが落ちて不転になったり、同じ音価が小転と大転の両方に現れたりと、分類が難しい。このため、転母の分類に関しては専門家の間でも統一しないのが現状である。音節構造と合わせて様々な分類法が提案されているが、凌宮音韻は規則性を強めた分類法に属する*5。 結母(けつぼ)結母は、音節の終わり方を表す。5結母である。 歴史的音韻変化で消えた両唇鼻音の m や破裂音 p、d、k も存在していれば結母に入る。また、児音化も5結母と組み合わせた音として結母に分類されることになる。しかし、児音化の規則は複雑で、進化が現在でも進行中であるため、まとまるまで結母に加えないことにした。
声調声調は、音の高さを表す。5声調である。 一番低い音を1、一番高い音を5とする5度式で説明される場合が多く、その場合の調値は 55、35、214、51 で表現される。絶対の高さは地域差、個人差が大きいが、意味の弁別に用いられる声調が5つあることが変わらない。 軽声は固有の調値ではなく、直前の声調に応じて変化する。また、文脈アクセントを兼ねているため、規則が複雑である。軽声に関しては、別に纏める予定。
まとめ・つなぎ |